VERY BOOKS ~ 本棚の「本」たち

古代史、進化論、量子力学、宇宙、スモールビジネスモデル、日本語の成り立ち等、 興味分野を本棚の「本」たちと語ります。

『魏志倭人伝』を探訪する(2)

 第一回では、自らの立ち位置(邪馬台国北九州説)とその根拠を紹介した。二回目からは『魏志倭人伝』が記された時代背景と作者である陳寿の史家という立場。そこから邪馬台国の場所を探訪してみよう。

 

(好意的に記されている邪馬台国

 『魏志倭人伝』は正式には中国の歴史書三国志』中の「魏書」第30巻烏丸鮮卑東夷伝(うがんせんびとういでん)倭人条の略称 である。東夷伝には他に、夫余、高句麗、東沃沮(とうよくそ)、挹婁(ゆうろう)、濊(わい)、韓の各条がある。その中でも最も紙面を割いているのが倭人条であり、約2000文字である。

 『三国志』研究の第一人者の渡邉義浩氏は、『魏志倭人伝の謎を解く』にて、『魏志倭人伝』は倭国について理念的にしかも好意的に描かれていると述べている。

 例えば、『論語』の一文に「(孔子の子である)鯉が死んだとき、(その墓には)棺はあるが槨(かく)はない」とあるように当時の中国では薄葬が尊重されている。扶余の条では、「厚葬で、郭はあるが棺はない」と記され、高句麗の条では「厚葬」であったと貶められている。それに比べ、倭人の条では「その遺体には棺はあるが槨はなく、盛り土をして塚をつくる」と薄葬であることが明記されている。ちなみに「棺」は北九州一体で多く発掘される「甕棺」であると思われる。

 詳細の説明は省くが、他にも礼の伝承、長幼・男女の別、恵まれた自然を挙げている。

「婦人は淫らならず。妒忌(嫉妬)せず。盗窃せず、訴訟少なし。」であり、「倭人は寿命が長く、あるいは百年、あるいは八、九十年である。」の記述である。当時の神仙思想では仙人が住むと言われる蓬莱・方丈・瀛州(えいしゅう)の三神山が中国の東方海上あると考えられており、倭人を仙人のイメージに重ねていると思われる。

 

魏志倭人伝が記された時代背景)

 魏の皇帝は「親魏倭王」の称号を卑弥呼に制詔したが、一方、「親魏大月氏国」の称号を中央アジアからインド北部までを支配するクシャーナ朝に付与している。

 当時の魏は江南地域を支配する呉と対立していた。その呉を挟む月氏邪馬台国が魏に朝貢してきた。それぞれに「親魏〇〇」の称号を与えたのである。実際に広大な地域を支配している大月氏国に対して、遠く朝貢してきた邪馬台国の実態は甚だ心もとないが、当時の魏からすると呉の海上支配に対抗する重要な国と認めたのであろう。

 『魏志倭人伝』を含む『三国志』は3世紀後半に陳寿により記されている。陳寿は晋の王朝に仕えた士官である。晋は魏の重臣司馬懿が魏の曹一族を倒し、その息子たちが建てた国である。建前は禅譲であるが実態は家来が主君一族を殺して国を奪う謀反である。陳寿は正史である『三国志』に史家として正しい歴史を記すとともに、晋に士官する身として司馬氏に対して忖度が必要であったと考えられる。血なまぐさい謀反を禅譲と記し、司馬懿の功績を各所に織り込むこととなった。

 

(時代背景から読み説く魏志倭人伝

 このような時代背景から『魏志倭人伝』を読むと、これまで曖昧と思われたいくつかの記述が納得のいくものとなる。

 『魏志倭人伝』は帯方郡から女王国までの距離を1万2千余里としている理由を、渡邉義浩氏は「朝貢する夷狄が遠方であればあるほど、それを招いた執政者の徳は高い。邪馬台国を招いた執政者の徳を大月氏国のそれと同等以上にするためには、邪馬台国は洛陽から1万7千里の彼方にある必要がある。」という。洛陽から大月氏国までが1万6千3百70里であるからでる。また、洛陽から帯方郡までが5千里なので、帯方郡から邪馬台国までは1万2千余里となるわけである。

 また、邪馬台国が魏に朝貢できたのは、司馬懿が公孫氏を滅ぼしたからであり、司馬懿の功績である。司馬氏が治める晋の士官である陳寿は、その邪馬台国のことを理念的に好意的に記すことで、司馬氏に忖度しているのである。

 

 このように渡邉義浩氏は陳寿の立場を説明するが、同じような観点に立ちながらも、もう一歩進めて、邪馬台国の位置を読み解くのが、孫宋健氏著『邪馬台国の全解決』である。キーワードは筆法大放射説(「大放射説」のネーミングは私オリジナルかも?)。次回、詳細を紹介しますね。

 

(PS)

 こんな昔の話であっても、好意的に書いていると聞くと、ついつい嬉しくなってくるのは不思議ですね。まあ「世界が驚いたニッポン!〇〇視察団」「COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン」なんて番組を視ている気分です。

 そのうち、「日本人、昔からすごかった。ここがすごいよ、邪馬台国!」なんて番組ができるかもです(笑)。

 

(参考文献)

魏志倭人伝の謎を解く』渡邉義浩 中公新書

邪馬台国の全解決』孫英健 言視舎

ヤマト王権の古代史学』坂靖 新泉社

『考古学から見た邪馬台国大和説』関川尚功 梓書院

『日本古代史を科学する』中田力 PHP新書

『幻の邪馬台国宮崎康平 講談社

倭国伝』藤堂明保 他 講談社学術文庫

 

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