VERY BOOKS ~ 本棚の「本」たち

古代史、進化論、量子力学、宇宙、スモールビジネスモデル、日本語の成り立ち等、 興味分野を本棚の「本」たちと語ります。

量子たちの不思議な振る舞い(2)~『量子力学で生命の謎を解く』

量子力学で生命の謎を解く』ジム・アル=カリーリ、ジョンジョー・マクファデン(著)を読み始めた。

たまたま、TEDにて著者のジム・アル=カリーリのプレゼンテーションを聞いたのがきっかけだ。「量子生物学」という新しい分野のプレゼンテーションであった。
量子力学を使って現在まで未解明の生命現象の謎を解き明かすのだという。
https://digitalcast.jp/v/23104/

 

彼が同じテーマで書いたのがこの本である。

君の名は。』の監督である新海誠が次のような帯文を書いている。

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生物と無生物を分かつ
「魂」の正体は「量子の生気」か!?
命の秘密に迫る、
とてつもなくスリリングな一冊だ。
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確かに、スリリングなテーマだ。ワクワクしながら読み進めた。


量子力学1920年代半ばに、きわめて小さい世界(いわゆるミクロの世界)、つまり、身の回りのあらゆるものを形作っている原子の振る舞いやその原子を形づくっているさらに微小な粒子の性質を説明するための数学理論として編み出された。

 

そこでの量子の振る舞いのいくつかは、実に奇妙で直観的には信じがたいものであるが、理論だけでなく、実験でも証明されており、既に私たちの生活にも深くかかわっているという。本書のはしがきでは、まずは、量子の奇妙な特徴とそれがどのように私たちの生活にかかわっているかを紹介している。

 

最初の奇妙な特徴は、「量子は波動と粒子の二重性」である。
前号で紹介した『鏡の中の物理学』は、「素粒子は粒子であるか」「光子の裁判」でその特徴を記述している。
この特徴は電子顕微鏡に応用されている。従来の光学顕微鏡の原理となる可視光の波長では捉えられない微細な部分を電子に伴う波長ににより観察する。電子が波動のような性質を持っているという発見から生まれている。
そう、この3年間その映像を見なかった日がなかったコロナウイルスの映像も量子力学の成果なのである。

 

2つめは、「量子トンネル効果」。粒子は古典物理学上はすり抜けれないエネルギー障壁を一定の率ですり抜けるというものである。
太陽の中で行われている核融合では、正の電荷を持つ二個の水素原子核が融合するが、正の電荷うしの反発の中融合できるのは、「量子トンネル効果」によるものだという。

江崎玲於奈博士がノーベル賞を受賞したテーマであるトンネルダイオードも、まさにこの現象を利用している。産業の米と言われる半導体量子力学なくして設計、製造はできない。

 

3つめは、粒子が同時に二通り、あるいは百通りや百万通りの振る舞いをする「重ね合わせ」と呼ばれる現象である。
比喩的だが粒子のスピン(回転)は上向きのものと下向きのものがあるとすると、量子の世界の粒子は同時に両方のスピン状態を持っているという。
観測したときにはじめてどちらかが決まる。身近な応用例としては磁気共鳴イメージング(MRI)である。MRI装置は、強力な大型磁石を使って、患者の体内に存在する水素原子の原子核のスピンを軸を整列させる。次にそれらの原子に電波のパルスを当て、
整列した原子核が同時に二つの方向でスピンしているという奇妙な量子状態を作る。この重ね合わせ状態になったこれらの原子核がもとの状態に戻るときに放出されるエネルギーがMRI装置の電子回路で検出され、内臓の詳細な画像が作られているらしい。

 

最後は、量子力学の中で最も奇妙で不気味な現象と言われる量子もつれである。
例えば、原子どうしの結合は電子のペア(スピンの向きは逆同士)を共有することで作られるが、その電子ペアを切り離してお互いにどれだけ遠くに引き離されても、
(本書での比喩表現では)片方の粒子にいわば何かちょっかいを出すと、遠く離れた相棒が瞬時に飛び上がるという。このような粒子どうしの関係を、「量子もつれ」という。
本書では後段に記述がある「量子コンピュータ」がその応用例である。グーグルやIBMがその開発を凌ぎ合っている。
前述の「重ね合わせ」とともにどのように応用されているかは、以下、IBMが公表しているホームページでの説明に詳しい。

「高速化の鍵は量子の「もつれ」や「重ね合わせ」ーー 量子コンピューターの原理を知る」
https://www.ibm.com/blogs/think/jp-ja/ibmq-principle-of-quantum-computer/


さて、ここまで書いてきたことは、「第一章 はしがき」の、しかも半分にしか過ぎない。著者は、これらの量子力学の原理をもって、これまで未解明の生命現象の謎を解き明かしていくのだ。これからが本論である。


どのような生命現象を解き明かしているのだろうか。以下、挙げてみる。

酵素は全ての細胞の中で、いわゆる生命力というものに最も近いが、その作用には量子トンネル効果が関係している。

・ヨーロッパコマドリをはじめとする渡り鳥は、地球の磁気を感じ取って進むべき方向を判断しているのだが、このきわめて微弱な磁気をどのように感じ取っているのか。

クマノミ(「二モ」)は、卵から孵ると外洋の海流に流され何キロ先にも行くにもかかわらず、成魚になって産まれたサンゴ礁に戻ってくるのは何故か。

・進化を促す重要な要素である突然変異に、量子トンネル効果がかかわっているのではないか。

・微生物や植物の光合成系は、太陽エネルギーの光子をどのように廃熱させずに反応中心に運んでいるか。

ロジャー・ペンローズがいう通り、非計算的なプロセスを実行できる人間の心は、量子力学でしか得られない何か特別なもの(量子コンピュータ)が作用しているのか。

・死はもしかしたら、生命体が秩序だった量子の世界との結びつきを断ち切られ、熱力学のランダムな力に対抗するパワーを失うことかもしれない。

・量子生物学を利用して新たな生命技術を作り出すことはできるか?

 

全367ページを読み切るのはまだまだ先のようである。

 

しかし、量子力学がこれまでの常識を覆す強烈な飛躍感を持つことが実感できる。まるで産業革命やインターネット革命のよう。日本は量子立国を国家戦略とすべきだよなー、とつくづく思う。湯川秀樹朝永振一郎江崎玲於奈という先人を輩出していることに加え、「心」や「意識」までも包含しているなら、なおさらである。

 

新しい気づきを得られた都度、記事をアップしていきたい。

 

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